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微粒子技術コラム

応用編
マイルド分散とビーズの流動について

マイルド分散とビーズの動きについて

従来のビーズミルは、スラリーがベッセル内に滞在する時間を長くしてショートパスがないようにL/D(ベッセル長さと径の比)を大きくしている。1パス運転で目的の粒子径に到達するような処理では効果はあるが、何回もベッセル内を通る循環運転が必要なナノメートルサイズへの分散には不向きである。
大きいL/Dほどビーズの偏析は生じやすく、無駄な動きの増加やエネルギー効率の低下が起こる。さらに質量の軽い微小ビーズでは偏析が顕著になり過分散の原因となる。
ビーズミルの構造を考えると、アニュラー型ビーズミルは低粘度で粒子が線結合や点結合で緩やかに凝集している凝集体にも強力かつ均一なせん断作用が付加されるので、過分散が起こりやすい。
ビーズに着目すると粉砕は主にビーズと粒子間に働く摩擦とせん断力の複合的な作用によって行われ、分散はビーズがスラリーの流れを移動する際に生じる速度差によるせん断力と、自転しているビーズの角速度差から発生する回転せん断力によって行うと考える。
従来のビーズミルは、アジテータの高速回転で発生する遠心力によりビーズがベッセル内壁へ押し付けられる力とアジテータとベッセル内壁間に生じる速度差によるせん断力を利用しているため、ベッセル内壁近傍とアジテータ部分とでは力の不均一が生じ、力の強い部分では粒子がダメージを受けやすく、再凝集の原因となり、対象物によってはナノメートル領域への分散は不可能だった(図1)。

図1 ベッセル内におけるビーズの分布

ナノメートル領域に分散するためにはビーズが、「1.ベッセル内全体で均一に存在する」「2. すべてのビーズが均一に仕事をする」「3.作用頻度が増える」などの状態が理想とされる。ビーズが均一に仕事をしないと、図2のようにビーズが一部分に偏ることや、ビーズの共回りによる作用頻度の減少がある。

図2 ビーズの偏り

従来のビーズミルで粒子の「サイズ」「形状」「比表面積」「結晶構造」「表面状態」などを維持したまま分散するためには、微小ビーズを使いアジテータの回転数を低くすることが多いが、微小ビーズはスラリーとビーズの分離や安定した運転が難しく、アジテータの回転数が低いと分散にかかる時間が長くなり、能率の低下をまねくことがある。
過分散を防止するマイルド分散を行うためには、安定してスラリーと微小ビーズを分離できるセパレータやアジテータの回転数を高くしてもマイルド性が失われないビーズミルの構造が必要とされる。

ビーズ間の流れを制御して高品質・高精度なナノ粒子を大量生産

アシザワ・ファインテック製のナノ粒子大量生産用分散機『MAXナノ・ゲッター®(HFM)』は、アジテータの構造を工夫することでビーズの流れのコントロールと、均一な力分布による粒子への適切なせん断力を与える技術を確立し、ビーズ間の流れをコントロールすることで高い分散効率を可能にした(図3)。

図3 MAXナノ・ゲッター

ビーズミル内の軸流の大きさの違いによる分散効率の違いを図4に示した。
周方向の旋回流が支配的な場合、分散は進まないが周方向の旋回流に軸流方向の流れを作り出すことで分散が進み、さらに軸方向への流れを大きくすることで、より分散効率が向上することがわかる。このため、ベッセル内部にらせん流を発生させることで、従来のビーズミルよりも高効率で均一なエネルギーを粒子に与えられる。さらに、別駆動遠心分離機構を付与することによりビーズ分離と分散力を独立できるため、幅広い運転条件設定ができる。これらにより、粉砕と分散の繊細なコントロールと微小ビーズの安定した使用と分離が可能となった。

図4 ビーズ流動の違いによる分散結果

従来のビーズミルとMAXナノ・ゲッターを使用して酸化チタンを分散した結果を図5に示した。MAXナノ・ゲッターは粒子形状を維持したまま分散したことがわかる。

図5 分散前後の比較(SEM)

まとめ

最適な分散処理を行うためには、製造プロセスや対象物の特性に合せた装置の選定が重要である。分散処理にビーズミルを用いると微粒子を効率よく生成することが可能となる。
一般に、ビーズミルの分散効率は機械的条件(運転条件,形状条件)で変化し、微小ビーズを用いると分散効率は飛躍的に向上する。しかし、分散効率は原料の一次粒子径および二次粒子径などの粒子性状によっても影響を受けるため、運転条件の検討は重要である。
「一次粒子のサイズ」「形状」「比表面積」「結晶構造」「表面状態」などを維持したまま分散するマイルド分散は、粒子に与えるエネルギーが小さく、結晶のひずみや粒子表面の活性が抑制される。このため粒子が再凝集することなく安定して分散させ、メカノケミカル効果による分散粒子の結晶構造の変化が防止・抑制できるという利点がある。

引用文献

  1. 田村崇弘:コンバーテック,40,12,90(2012).