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技術情報

微粒子技術コラム

応用編
スケールアップに関する5つのファクター

スケールアップについて

「スケールアップ」とは、小型実験機で得た結果を大型生産機でも同様に実現するために、大型生産機の装置寸法や運転条件などを決めることである。
スケールアップの基本条件は、相似性と考える。この相似性には、幾何学的相似性、メカニズムの相似性、熱的相似性、化学的相似性がある。また、メカニズムの相似性には、静的応力の相似性、運動の相似性、力学的相似性がある1)
ビーズミルのスケールアップには、幾何学的相似性、メカニズムの相似性における運動の相似性と力学的相似性が使用される。

ビーズミルのスケールアップの考え方

スケールアップは、主に「1.ビーズ量」「2.遠心力」「3.ベッセル内流速」「4.冷却能力」「5.投入できる動力」の5つのファクターを考慮して行う。

1.ビーズ量

小型実験機と大型生産機のスケールアップは、形状、寸法を相似にして行うが、すべての寸法比を一定にする必要はなく、現象を支配する条件を満足できればよい。処理能力のスケールアップは、ビーズミルの形状が相似でビーズ量を基準に行う。ビーズミルは確率粉砕機なので、ビーズの数に比例して能力がアップする。形状などが相似のため幾何学的相似によりスケールアップをしているといえる。

2.遠心力

ビーズミルは、アジテータの回転がビーズに回転運動を与えているので遠心力が働く。この遠心力が粉砕、分散に影響を与えるので、スケールアップは粉砕、分散の場を一定にして行う。これは、メカニズムの相似性における運動の相似性を用いている。
遠心力を式1に示す。遠心力の大きさは、アジテータの径に反比例するので大型になるほど不利になる。

ここで、F [N] は遠心力、m [kg] はビーズの質量、U [m/s] はアジテータ周速、D [m] はアジテータ直径である。

3.ベッセル内流速

微小ビーズは、粉砕室を通過する縦断面の速度の影響を受けやすく、偏りやすくなるため、ベッセル内流速一定でのスケールアップが望ましい、また、ビーズ量に対する粉砕室の断面積も大型機になるほど不利になる。
ベッセル容量 V [m3] とベッセル直径 DV [m] の関係を式2、ベッセル断面積 AC [m2] とベッセル直径の関係を式3に示す。

スケールアップの相似比をk、スケールアップ後のベッセル容量Vk[m3]、ベッセル断面積Ack[m2]とすると

よって となり

ここで、粉砕室を通過する縦断面の速度 v [m/s] と供給量 Q [m3/s] の関係は式5である。

この粉砕室を通過する縦断面の速度を一定にすることは、メカニズムの相似性における運動の相似性と考えられる。

4.冷却能力

粉砕、分散処理を行う場合、動力のほとんどが熱に変換されるので、“ 粉砕 = (イコール) 熱 ”ということができる。熱は製品の劣化や溶剤の蒸発などで危険の助長、環境衛生を劣悪にするので除去しなければならない。熱交換は粉砕室の壁からので行うので冷却面積が大きく影響する。この冷却面積もビーズ量と同じには増加しないので、これも考慮の対象となる。 ベッセルの冷却面積 Ah [m2] とベッセルの長さの関係を式6に示す。

式2と式6より、式7が得られる。

スケールアップの相似比を1=kとすると3.と同様に
となり

5.投入できる動力

ビーズミルにおいて投入できる動力 P [W] は、理論的にアジテータの回転直角断面積 A [m3] とアジテータ周速 U [m/s] の3乗に比例する。(式8)回転直角断面積とビーズの比率は必ずしも一致しないので、これも検討に加える必要がある。

よって、ビーズミルのスケールアップは、ビーズ量、遠心力、管内速度一定、冷却能力、投入できる動力のスケールアップ因子を考慮にいれて行う。
これらのスケールアップ因子より、小型実験機から大型生産機へのスケールアップは次式で表わされる。

ここで n = 0.67~0.8、W1 [kg/h] は小型実験機での処理量、W2 [kg/h] は大型生産機での処理量、V1 [m3] は小型実験機のベッセル容量、V2 [m3] は大型生産機のベッセル容量である。

循環方式とパス方式でのスケールアップの違い

循環方式で用いるビーズミルは、L (ベッセル長さ)/DV (ベッセル直径) は小さく、ビーズは比較的偏りにくい。また、熱はタンクなどの外部でも除去できることから、投入できる動力を主体にスケールアップを行う。また、パス方式で用いるビーズミルは、L/DV が大きく、ビーズが偏り易く、熱の影響を受けやすいなどから、管内速度と冷却能力を主体にスケールアップを行う。
循環方式で用いるビーズミルのスケールアップは式10、パス方式で用いるビーズミルのスケールアップは式11で表される。

実際のスケールアップはスラリーの性状や粉砕、分散の形態によっても変化があるので、予測したとおりの結果が得られないこともあり、多少のアジテータ周速やビーズ量の修正が必要な場合もあるが、動力原単位をあわせることで粒子径の再現は得られる。特に粉砕は遠心力が支配的な対象物もあり、この場合にはビーズ量を減らし、アジテータ周速を速くすることで対応することもある。

ビーズミルを用いた実験

粉砕室容量の異なるビーズミルを用いて重質炭酸カルシウムを粉砕し、動力原単位と50%粒子径(X0.5)の関係を調べた。粉砕室の形状やビーズ径、ビーズ材質、ビーズ充填率、アジテータ周速を一定としている。粉砕室容量の違いによる動力原単位とX0.5 の関係を図1に示す。粉砕室容量が変わっても、動力原単位とX0.5 の関係は、ほぼ同一線のプロットにのるため相関性があることが分かった。つまり、ビーズミルをスケールアップする際は、動力原単位を合わせることで、メディアン径はほぼ同じになる。

以上のことからビーズミルのスケールアップにおいても、ビーズミルを動力原単位で管理することで、メディアン径の再現が得られることがわかる。さらには、スケールアップ後の処理量の推測が可能になり、製品の品質管理も可能になる。

図1 粉砕室容量の違いによる動力源単位とX0.5の関係

図2 実験に用いた当社の機械

まとめ

ビーズ量、遠心力、ベッセル内流速、冷却能力、投入できる動力を考えると、小型実験機は大型生産機よりも高い能力を発揮できることが分かった。生産を考える際は、大型化しても安定した運転が可能な条件を、小型機のデータを基に検討する必要がある。

引用文献

  1. 坂下攝:粉体プラントのスケール・アップ手法、工業調査会、p.1(1992)