技術情報
微粒子技術コラム
応用編
ビーズ充填率とアジテータ周速の影響
ビーズミルの粉砕・分散効率に影響を与える因子として、ベッセルやアジテータの形状、運転条件、スラリーの固形分濃度や粘度などがある。 今回はベッセルやアジテータの形状、スラリーの固形分濃度や粘度を一定にして、ビーズ充填率とアジテータの回転(以下、アジテータ周速)を変化させた場合について説明する。
ビーズ充填率およびアジテータ周速
ビーズ充填率やアジテータ周速は、ベッセルやアジテータの形状、運転方法に適した値があるが、一般的にベッセルへのビーズ充填率は 70~90 vol%、アジテータ周速は 6~15 m/s に設定し、値が大きいほど粉砕・分散速度が速くなる。
充填率が高いとビーズの個数が増えて接触頻度が増え、アジテータ周速が速いとビーズに伝達する運動エネルギーが大きくなり、ビーズ同士の接触頻度も増す。
しかし、高い充填率や高周速の運転ではスラリーの発熱やビーズやミル内部の部材の摩耗が大きくなると予想される1),2)。
また、高周速だと分散結果が悪くなる場合があり、これはビーズが1次粒子に過度のエネルギーを与え、粒子表面が活性化し再凝集が起こったり、1次粒子まで粉砕する過分散が発生したと考えている。過分散を防止し、分散により粒子の特性を向上させるためには、対象物に適した条件を設定することが重要である。
ビーズミルを用いた実験例
大流量循環運転が可能なビーズミル(スターミル LMZ)を用いてビーズ充填率とアジテータ周速の違いによる粉砕効率を調べた例を示す。
機種:スターミルLMZ
対象物:重質炭酸カルシウム
ビーズ径:φ0.3mm
条件:スラリー流量は一定
粉砕時間と 50% 粒子径(X0.5)の関係を図 1に示す。ビーズ充填率が高く、アジテータ周速が速いと短時間で粒子が微細化したことから、粉砕効率が向上したことがわかる。これは分散についても同様である。
また同じ条件で炭酸カルシウムを1kg作製するのに必要な電力(以降、動力原単位)とX0.5の関係を図 2に示す。ビーズ充填率やアジテータ周速が変化しても動力原単位とX0.5の関係は、ほぼ同一線のプロットにのるため相関がある。さらに、ビーズの材質が変わっても同じ傾向が見られた。
動力原単位と粒子径分布の再現性を確認するために、粒子径分布幅を 90 %粒子径(X0.9)から10 %粒子径(X0.1)を引いた値 X0.9-X0.1の関係(図3)を調べると、相関を持つことがわかった。
以上より同じビーズ径ならばビーズの材質や充填率、アジテータ周速が変化しても、動力原単位を合わせることで、粒子径と粒子径分布の幅の再現性が得られることが分かった。
ビーズ充填率や密度を変更したときの粉砕・分散効率の変化
ビーズ充填量(充填率)やビーズ密度はビーズミルの攪拌動力に比例する(式1)。
P [W]はビーズミルの撹拌動力、W [kg]はビーズ充填量、φ[-]はビーズ充填率、ρGM[kg/m3]はビーズ密度である。
ビーズ充填率が変わると粉砕・分散効率 fφ と fρ は式2、式3に変化する。
一方、アジテータ回転数や速度はビーズミルの撹拌動力の 3乗に比例する(式 4)。
P [W] はビーズミルの撹拌動力、n [1/s] はアジテータの回転数、U [m/s] はアジテータ周速である。
よって、アジテータ周速の変更による粉砕・分散効率 fU は、
以上により、動力の変化は粉砕・分散効率に影響を与えることがわかる。
まとめ
ビーズ充填率やアジテータ周速はビーズミルの粉砕分散速度に大きく影響を与えるファクターである。到達粒子径を大きく変えるためには、ビーズ径といったファクターを変更することが必要であるが、同一ビーズ径で粉砕分散速度の調整をするためにはビーズ充填率やアジテータ周速を操作する必要がある。
粉砕・分散においてのビーズが粒子に与えるエネルギーが強すぎると分散性能が悪くなることもあるため、最適な運転条件を見つけることが重要である。
●注意:
1.対象物の状態( 1次粒子の粉砕か 2次粒子〈凝集体〉の分散)、2.初期の粒子径や目標とする粒子径、3.粒子の硬さ、4.スラリーの粘度・比重などにより粉砕・分散効率は変化するので、上記式は目安である。
ビーズ充填率の変更による粉砕・分散効率の変化は、ビーズミルの形状などによりビーズ充填率が大きいほどビーズ充填率比の乗数が大きくなる場合がある。
また、アジテータ周速の変更による粉砕・分散効率は、経験的にアジテータ速度比の2~3乗になる。
粒子径分布は、レーザ回析・散乱式により測定した。
引用文献
- 石井利博,橋本和明,J.Jpn.Soc.Colour Mater.,85,4,p.144(2012)
- 石井利博,橋本和明,J.Jpn.Soc.Colour Mater.,85,9,p.357(2012)