ナノ粒子が与える生体への影響とは

ナノ粒子は粒子径が1〜100ナノメートルの超微粒子です。

物質をナノ粒子化することにより、従来の微粒子ではなかった性質が現れたり、従来よりも性能が高まったりするため、ナノ粒子の市場は急拡大しています。

しかし、ナノ粒子は安全性の問題が指摘されるケースもいくつか出てきました。

バルク粒子では生体への影響があまりなかった物質でも、ナノ粒子化すると生体への影響が強くなる場合があることがわかってきたのです。その影響については未だ研究・評価途中であり、安全に対しての法的な整備がまだ整っていない状況です。

なぜナノ粒子化することによって生体への影響が現れるのかというと、次の2つのポイントから説明することができます。

  1. 粒子径による病原性
  2. 繊維状による病原性
ナノ粒子の生体に与える影響について

1.粒子径による病原性

粒子径が小さくなることにより、大きく変わってくるのが質量に対しての表面積です。粒子径が小さくなると、質量に対して表面積が大きくなります。そして表面積が大きくなると、他の物質へ触れる面積が広くなるため、反応性が高くなります。

化学反応においてはメリットとなる特性ですが、生体においては危険性を高める要因にもなり得ます。

例えばチタニア粒子(酸化チタンのナノ粒子)などが生体に入ると、免疫機能が反応し炎症が起きます。また、粒子径が小さくなればなるほど、より少ない量で炎症反応が起きることがわかっています。さらに、粒子径が小さいほど炎症が発生する部位が拡大します。

粒子径が小さいことで、わずかな量であっても生体に影響を及ぼすのです。

2.繊維形状による病原性

過去に大きな問題となったアスベストによる中皮腫発生は、マイクロメートルサイズの繊維形状をしたアスベストが肺組織に刺さったことが原因です。

カーボンナノチューブなどの物質は、粒子ではなく極細の繊維形状をしています。アスベストと同じく、硬く直線性が高いカーボンナノチューブは、細胞に刺さってしまうと中皮腫を引き起こすことが知られています。

このことから、繊維形状をした他のナノマテリアルでも、同じような問題を発生させる可能性があるとされています。

粒子を吸引した際の粒子径別の分布部位の違い

粉末状の粒子を吸引した場合、粒子の径によって呼吸器官のどの部位に留まるかが変わってきます。

1〜100ナノメートルの場合、その多くが気管支部や肺胞部まで入り込むのに対し、1マイクロメートル以上の粗大粒子の場合は、頭部や上気道部に留まります。

粒子が細かいことで、より体の内部へと侵入しやすくなる傾向があるため、重大な健康問題に発展する可能性が示唆されます。

ナノ粒子材料の許容暴露量

ナノ粒子材料は従来の粗大粒子とは異なり、体の内部へと入り込みやすく、粒子径や繊維形状による病原性が懸念されています。そのため、いくつかの機関から安全管理のための許容暴露濃度が提案されはじめています。

NEDOプロジェクトからは、

  • 二酸化チタン 0.61mg/㎥(PL)
  • フラーレン 0.39mg/㎥(PL)
  • MWCNT 0.21mg/㎥
  • CNT 0.03mg/㎥(PL)

NIOSH(米国・国立労働安全衛生研究所)からは、

  • 二酸化チタン 0.3mg/㎥
  • CNT 0.007mg/㎥

が提案されており、いずれも動物での吸入・注入試験から導き出された数値です。

PLと記載されているものに関しては15年の期限付きで、10年で見直しをする前提で設定された値となっています。

暴露防止対策の基本

これまで紹介してきたようにナノ粒子は飛散性が高く、病原性が高いなどの問題があります。そのため、暴露しないための対策を実施しなければ、ナノ粒子の製造ラインの作業者の健康を害する可能性があります。

具体的にナノ粒子を取り扱う現場で行われる暴露防止の対策は、次のようなものがあります。

  • 製造ラインの密閉化
  • プッシュプル換気
  • 保護具の着用
  • フィルターでの粉塵除去

製造ライン全体を密閉化したり、作業時にグローブボックスを使用するなどの対策が取られています。原材料を入れたり、洗浄や保守点検をしたりする際には、一時的に開放されるため、プッシュプル換気などの処置を併用する必要があります。

プッシュプル換気は、気流の方向をコントロールし、作業者ができるだけ屋外の空気を吸えるような換気の手法を指します。製造ラインを密閉化できないような場合は、このようなプッシュプル換気を使用するのが望ましいとされています。

プッシュプル換気によって飛散するナノ粒子の量は減らすことができますが、完全にはなくすことはできません。そのため、作業者はナノ粒子を吸引しないために、マスクなどの保護具の装着が必要です。飛散するナノ粒子の濃度や物質の危険度に合わせて防護係数の高いマスクを利用しなければなりません。

ナノ粒子を取り扱う施設から、ナノ粒子を飛散させることになるため、フィルターでの粉塵除去を行った上でクリーンな排気を行う必要があります。バグフィルターとHEPAフィルターを用いて除去する手法がよく取られています。