ナノ粒子次世代材料の用途
今や酸化チタンナノ粒子の光触媒コーティングを代表する「ナノ粒子」を使った一部の技術は、一般的となりました。
調査会社のREPORTOCEANが、2022年1月5日に発表したレポートによると、ナノマテリアルの市場規模は2021年~2027年の間に13.2%以上の成長率で成長すると予測されています。これからもますますナノ粒子の市場は成長し、一般的になっていくでしょう。
ナノ粒子を使った新しい技術は日々発表されており、これまで不可能だったことの実現や従来技術の高効率化が期待されています。その中でも、最新の研究発表で実用化が進められている用途について紹介していきます。
リチウムイオン電池の充電・放電時間を短縮する技術
岡山大学の研究では、誘電体ナノ粒子をリチウムイオン電池の電解液の中に入れることで超高速の充放電ができる技術を開発しました。携帯電話などで利用されているリチウムイオン電池は、小型で大容量かつ繰り返しの充電に耐えうる優れた性能を発揮する一方で、充電には時間がかかります。
チタン酸バリウムのナノキューブ(ナノ粒子を立方体にしたもの)を電解液に添加し、3分間の急速充放電テストを行った結果、通常の電池よりも4.3倍もの結果が出たとのことです。この技術は電気自動車の超高速充電への利用が期待されています。
がんの検出・治療
北陸先端科学技術大学院大学が実験に成功したこの技術は、液体金属であるガリウム・インジウム合金のナノ粒子と生体分子を吸着させた物質をマウスに投与し、数時間後に近赤外線を照射するとがん細胞を可視化できるという技術です。
ガリウム・インジウム合金ナノ粒子をゼラチンやDNAなどの生体高分子で包む「コア・シェル型」のナノ粒子を作ることで、ガリウム・インジウム合金を生体内で安定した状態で維持できます。また、生体高分子で包むことによって、がん細胞に取り込まれやすくなり、近赤外線レーザーを照射するとがん細胞が蛍光発光を起こし可視化できるのです。
さらに、波長のことなる近赤外線レーザーを照射することで、ガリウム・インジウム合金ナノ粒子が発熱し、がんを消滅させることにも成功しています。
ガリウム・インジウム合金ナノ粒子が生体に及ぼす影響は殆どないとされており、ヒトのがん治療への応用が期待されています。
ゲノム編集治療
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、筋ジストロフィー症モデルのマウスに脂質ナノ粒子を使って、筋ジストロフィーのゲノム編集治療に成功しています。
筋ジストロフィー症は、ジストロフィータンパク質を作ることができない遺伝子異常が原因で発症する筋肉の病気です。筋ジストロフィー症は発症すると筋肉が壊れやすく、再生しにくくなり、徐々に運動機能が低下する指定難病です。
この技術では、脂質ナノ粒子を使ってゲノム編集に必要な酵素を筋肉組織へと運搬し治療します。従来から、筋ジストロフィー症のゲノム編集は研究されていましたが、骨格筋組織に広く行き渡らせることが課題となっていました。この技術では脂質ナノ粒子に、ゲノム編集を行うmRNAと細胞へ運搬するガイドRNAを取り付け、血液中に注射することで、体全体の筋肉細胞へ届けることに成功しています。
ナノ粒子はすでにドラッグデリバリーシステムとして活用されていますが、今後もその流れは加速していくでしょう。
3Dプリンタで全固体の電池製造
東北大学は、3Dプリンタで製造できる全固体のリチウムイオン電池を開発しました。
一般的なリチウムイオン電池は、電力の充電放電にリチウムイオンが移動するために電解液を必要とします。今回の技術開発では、リチウム導電性イオンの液体と、酸化物ナノ粒子を混ぜ合わせ、3Dプリンタで成形しUV硬化させることでリチウムイオン伝導性疑似固体電解質を開発しました。この材質はゲル状ですが電解質として機能します。
コバルト酸リチウム正極、リチウムイオン伝導性疑似固体電解質、チタン酸リチウム負極、の3つをそれぞれ3Dプリンタで印刷し、リチウムイオン伝導性疑似固体電解質を挟み込む形で圧着することで、全固体のリチウムイオン電池として機能します。これらの材料の3Dプリントは室温で可能なため、熱に弱い材質に組み込むなどの応用ができるようです。
一般的なリチウムイオン電解液は空気に触れると発火してしまいますが、今回開発された全固体のリチウムイオン電池は100回以上の充放電テストでも安全に動作したとのことで、リチウムイオン電池の安全性の向上にも期待が高まっています。