ナノ粒子化により得られる一般的な性質変化
ナノサイズ(100ナノメートル以下、ナノは10億分の1メートル)まで物質の粒子径を小さくすると、多くの物質でバルク粒子ではみられない共通の性質変化が現れます。共通する一般的な性質変化は、下記の4つが代表的です。
- 表面積の増大による活性化
- 拡散性の向上
- 蛍光発光
- 透光性の獲得
上記以外に、物質固有の性質変化が現れる場合もありますが、まずは一般的な性質変化について詳しく解説していきます。
表面積の増大による活性化
粒子径が小さくなると、体積に対する表面積の割合が大きくなります。表面積が大きくなればなるほど接触する面積が増えるため、触媒反応や化学反応を起こしやすくなります。ナノ粒子化することで、従来のバルク粒子よりも少ない量で十分な触媒反応を得られたり、強力な触媒反応・化学反応を得られたりできるのです。
拡散性の向上
ナノ粒子化すると液中での拡散性が向上します。拡散性とは、液中で混ざりあった状態をどれだけ維持できるかを示す言葉です。ナノ粒子レベルのごく小さな粒子になると、一度混ぜ合わせると均一に分散された状態を長期間維持するようになります。物質が均一に分散されていると、ばらつきのない安定した化学反応や効果を得られるため、生産品質の向上に大きく貢献します。
蛍光発光
ナノ粒子化すると「蛍光発光」の特性を得る場合があります。ネオン管のような蛍光色でナノ粒子が発します。この蛍光発光の色味は、粒子のサイズや物質によって変化します。蛍光発光するのはナノ粒子の振動が主な要因です。質量の小さいナノ粒子は、光のわずかな力であっても振動して発光します。この蛍光発光特性は、医療現場でバイオセンシングの技術として研究が進められています。
透光性の獲得
ナノ粒子化すると透光性の特徴も現れます。透光性はその名の通り光を通す性質を指します。ナノ粒子化すると光を通しやすくなるため、バルク粒子では利用ができなかった透明度が必要な製品へのコーティングなどにも利用できるようになります。
バルク粒子とナノ粒子の性質変化の実例と使用用途
バルク粒子とナノ粒子でどのような性質変化があるのかを、物質ごとの事例と合わせて見ていきましょう。
酸化チタンの性質変化と使用用途
バルク粒子での用途 | ナノ粒子での用途 |
白色顔料 遮熱塗料 電子セラミックス |
光触媒コーティング メタリックカラー塗料 UVカット化粧品 |
酸化チタンのバルク粒子は白色をしているため、白色顔料としてや遮熱塗料としての利用が盛んです。ナノ粒子化すると、光を乱反射させるフリップフロップ効果が現れます。この効果を使ったものがメタリックカラー塗料として利用されています。
酸化チタンナノ粒子はUVカットの能力も高いため化粧品としても使われます。バルク粒子を化粧品に使うには白が強くあまり好まれませんでしたが、ナノ粒子化で透明性を得られるようになり、現在では化粧品として盛んに利用されています。
ナノ粒子化すると透光性が向上するため、高速道路などの街灯やガラスなどの光触媒のコーティングとして利用されます。光に反応して表面に付着した有機物を分解したり、雨で汚れを洗い流す作用が強くなるなどの効果があります。
酸化鉄の性質変化と使用用途
バルク粒子での用途 | ナノ粒子での用途 |
弁柄(顔料)
化粧品 砥石 フェライト磁石 |
ドラッグデリバリーシステム
エレクトロニクス |
酸化鉄は、バルク粒子では朱色をしているため、古くから弁柄(顔料)として日本でも活用されてきました。現在でも塗料や化粧品に利用されています。粒子の硬度が高いため、砥石としての利用も盛んです。バルク粒子の酸化鉄に、バリウムやストロンチウムを加えて固めた「フェライト磁石」も広く普及しています。
酸化鉄はナノ粒子化すると、磁力の向きが安定しなくなり磁気がゼロに見える「超常磁性」の性質を発揮するようになります。この性質を「ドラッグデリバリーシステム」として、研究が進められています。その他にも、リチウムイオン電池などのエレクトロニクス分野でも活躍しています。
シリコン(ケイ素)の性質変化と使用用途
バルク粒子での用途 | ナノ粒子での用途 |
耐火レンガ原料
製鉄用脱酸剤 リチウムイオン電池材料 ファインセラミックス |
太陽光パネル
プリンテッドエレクトロニクス |
シリコンの粉末には脱酸素作用があるため、製鉄や鋳造などで脱酸素剤としても活躍しています。純度の高いものは、半導体のウェハーとして加工されます。
ナノ粒子化したシリコンは透光性が高く、太陽光パネルの表面にコーティングとして利用されます。このコーティングは光の吸収効率を上げる効果が確認されています。プリンテッドエレクトロニクスの分野では、シリコンナノ粒子を分散させたインクを使ってガスセンサーや太陽パネルの効率アップが研究されています。