ナノ粒子の計測方法(100nm以下の粒子)

(1)概要

エレクトロニクス、光学デバイス、医療分野などにおける精密なモノ作り成功のため、ナノ粒子の作成とその適切な計測は大変重要です。
ビーズミルによるブレイクダウンや液相法などのビルドアップにより素晴らしいナノ粒子を得ても、正しく計測できなければ、宝のもち腐れになってしまいます。ここでは、ナノ粒子を計測する測定原理、測定事例をご紹介します。

(2)粒子の大きさとその最適な計測原理

粉粒体、懸濁液、エマルションのような粒子集合体を精度よく短時間で測定する装置は、その粒子径範囲に応じて様々な方式が実用化されています。以下にその一覧表を示します。

さまざまなナノ粒子測定原理とその測定範囲

【表1】さまざまな測定原理とその測定範囲

【表1】の通り、ナノ粒子の計測には、動的光散乱式を原理とする測定装置が最も適しています。

10nm(銀ペースト)  100nm(ラテックス)   10μm(大粒子ラテックス)    10mm(肥料)

肥料の100万分の一 肥料の10万分の一 肥料の1000分の一

【図1】粒子大きさのイメージ

ISOやJIS でも紹介されている通り、動的光散乱式には、周波数解析法と光子相関法の二種類あります。ナノ粒子を用いたモノ作りでは、ナノ粒子の中心径だけではなく粒子径分布が重要であることから、ここでは周波数解析法について紹介していきます。

〇周波数解析法:粒子径分布を求め、そこから中心径を得る

〇光子相関法 :まず中心径を求め、演算で粒子径分布幅を得る

 (3)動的光散乱式(周波数解析法)による粒子径分布の測定

ナノ粒子は、懸濁液でじっとしておらず常にブラウン運動というランダムな動きをしています。このブラウン運動は、溶媒分子(例えば水分子)の熱運動により懸濁液中の粒子が弾き飛ばされることで発生します。大きな粒子のブラウン運動は比較的緩やかであり、微粒子ほど速く激しく運動します。そして、ブラウン運動している粒子にレーザ光を照射すると、その移動速度に応じてレーザ光の周波数がシフトします。パトカーや救急車のサイレン音が向かってくる時と走り去っていく時で聞こえ方が変わるドップラー効果と言われる現象です。

ブラウン運動とレーザ光の周波数シフト

【図2】ブラウン運動とレーザ光の周波数シフト

周波数特性は粒子径に依ります。下図は、6nm、60nm、及び、600nmの単一粒子から散乱したレーザ光の周波数分布を示しています。横軸の周波数を対数表現とすることで、粒子径に応じた周波数分布にピークを得ることが可能となります。

単一粒子の周波数特性

【図3】単一粒子の周波数特性

懸濁液中のナノ粒子は、様々な大きさの粒子集合体であり、散乱光は様々な周波数帯の合成波となります。ここでフーリエ変換の登場です。粒子からの散乱光をフーリエ変換により周波数分布を求め、アルゴリズムにより光強度分布、そして体積分布へと演算されます。

動的光散乱式装置光学系の一例を下図に示します。

動的光散乱式の光学系

【図4】動的光散乱式の光学系

レーザ光は、半導体レーザより照射され、オプティカルファイバーを通じて試料セルに導かれます。セル内の粒子集団により散乱した散乱光とプローブ表面で反射した光は、プローブを通過し光学スプリッターへ導かれ、ファイバーケーブルを通過して検出器に入光します。検出された散乱光は、アナログ信号からデジタル信号に変換されて、高速フーリエ変換処理を行い、アルゴリズムによって粒子径分布に変換されます。

また、動的光散乱式における散乱光の検出方法には、ホモダイン法とヘテロダイン法の2種類があります。ホモダイン法は、粒子からの散乱光だけを検出する方法であり、散乱光同士の干渉を利用する測定方法です。ヘテロダイン法は、粒子からの散乱光と入射光の一部を混合する方法であり、周波数がシフトしていない入射光は位相周波数測定時の基準となります。

ホモダイン法では、比較的稀薄なある一定の濃度範囲で測定する場合は有効ですが、特別に稀薄な濃度、或は高濃度の懸濁液を測定するには不向きです。一方ヘテロダイン法では、低濃度から高濃度まで幅広い濃度範囲において高精度測定を可能としています。

ホモダイン法とヘテロダイン法

【図5】ホモダイン法とヘテロダイン法

アシザワ・ファインテック製循環型湿式ビーズミル「ファーストミル」を用いて、酸化チタンの分散処理を行ないました。その運転時間と酸化チタンの粒子径分布測定結果を以下に示します。運転が進むに従って、粒子径分布が微粒子側へシフトし、約40nmにピークを持つシャープな粒子径分布となりました。

ファーストミル運転時間と酸化チタンの粒子径分布

【図6】ファーストミル運転時間と酸化チタンの粒子径分布

青:5分間(61nm) 緑:10分間(48.1nm) 赤:20分間(46.3nm)[※]

[※]D50%粒子径

測定装置:NANOTRAC WAVEII

測定原理:動的光散乱式(散乱光のヘテロダイン検出/周波数解析法)

測定範囲:0.8nm~6500nm

情報提供元:マイクロトラック・ベル株式会社

測定装置:NANOTRAC WAVEII